富山は2009年に完成した「蛭子と傀儡子旅芸人の物語」が最後のシリーズとなると考えていた。しかし2011年3月11日に東日本大震災が起こり、もう一度絵筆を握ることになった。この地震による犠牲者・行方不明者は18万人を超え、多くの村や家が大津波に飲み込まれてしまった。地震の後に発生した津波の影響により、東京電力福島第一原子力発電所で炉心溶融が起こった。メンテナンス中だった原子炉が 津波によって浸水してしまったからである。

それまで日本は近代的で効率的な社会として世界から高く評価されていた。20年間続いてきた国内の不況がその評判を傷つけはしていたが。しかし、日本政府と東京電力の三重災害に対するあまりにも無責任な対応に、多くの日本国民が失望と怒りの声を上げた。

このような災害を予期していなかった政府と東京電力は、当初国民に被害状況を隠そうとした。そしてその後も政府は、放射能の人体への影響や東北の復興よりも東京電力の組織を優先し、守り続けている。災害から5年も経った今、未だに危険は除去されていない。福島第一原発1〜3号機の原子炉には事故で溶けた核燃料を冷やすため毎日冷却水が注水されている。だがその結果、新たな汚染水が発生している。凍土方式の陸側遮水壁の効果には疑問があり、すでに日々増えている高密度の汚染水が太平洋に流れ出している。

富山は2011年3月11日についてこう振り返っている。「東京に住む私はテレビの報道に息を呑みました。マグニチュード9の地震は凄まじいエネルギーです。それは大地を揺さぶり、海は陸へと逆流しました。大津波が太平洋岸600キロの海岸線の生活を廃墟と化したのです。これは近代という時代の終焉でしょう。私はそれをテーマに3年かけて『海からの黙示』を制作しました。」

富山がこれまで描いてきたテーマと東日本大震災の余波は大きく関連している。国民は政府に対して強い裏切りを感じている。 日本政府は国民の安全より洗練した技術と自国を賛美しつつも、過去に起きた核災害を軽視したことで、今回の人災を起こしてしまったのである。富山は政府の自己満足をテーマに新しいシリーズを描き始めた。

Japan: Nuclear Power Plant | ニッポン:原爆 (2011)
Japan: Nuclear Power Plant | ニッポン:原爆 (2011)

以前のシリーズのように、富山は作品に日本の神話、アジアの宗教、世界共通の象徴, そして時事問題を多く用いている。シリーズの一部となる4つの大きな油絵には、爆発で屋根がないまま停止した原子力発電所の一つが描かれている。地震発生時4号機は運転を停止していたが、 1770本の核燃料棒が原子炉の上階に使用済み燃料プールに積み込まれていた。これはアメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)開発のデザインの弱点であったが、世界中の原発で一般的に用いられている設計である。

『海の記憶』に続いて、富山は人間と神の間に世界に潜む神々を描いた。『海からの暗示』では風神と雷神を描くことによって、神道とアジアの多国籍な神話を結び付いている。近年、風神と雷神のコンピューターゲームにとても人気があり、それら神々は世界中で知られる様になった。17世紀前半に田原宗達が製作した『風神と雷神図』は国宝の一つである。富山の作品では、風神が桜色のセシウム雲の上に浮かび、雷神は嵐の空の中に稲妻を投げ、太鼓を叩いている。

Fukushima Spring of Caesieum-137 | フクシマ:春セシウム137 (2011)
Fukushima Spring of Caesieum-137 | フクシマ:春セシウム137 (2011)

 

Crisis: Prayer for Sea and Sky | クライシス:海と空への祈り (2012)
Crisis: Prayer for Sea and Sky | クライシス:海と空への祈り (2012)

「海の黙示」は灰色、黒、そして茶色の配色を使ったコラージ15点を含み、作家の高橋悠治とのコラボレーションでDVDも製作した。富山は以前の作品にも表れている環境破壊問題をこのシリーズの中心的なテーマとして取り上げている。『分類されている蛾』は人間の技術への依存を表している。富山はその感想を美術作品として表現するためにコンピューターのマザーボードや携帯電話を分解し、コラージュとして貼り付けた。

To The Dead Butterfly: Fukushima 5, Poem to the Butterfly (2015) I 死せる蝶に-福島 5 蝶の詩 (2015)
To The Dead Butterfly: Fukushima 5, Poem to the Butterfly (2015) I 死せる蝶に-福島 5 蝶の詩 (2015)
To The Dead Butterfly: Fukushima 1 (2015) I 死せる蝶に-福島 1 (2015)
To The Dead Butterfly: Fukushima 1 (2015) I 死せる蝶に-福島 1 (2015)
To The Dead Butterfly: Fukushima 4 (2015) I 死せる蝶に-福島 4 (2015)
To The Dead Butterfly: Fukushima 4 (2015) I 死せる蝶に-福島 4 (2015)

富山の新たなメッセージは死の必然性、そして現代文明滅亡である。彼女は西欧の現代美術の象徴と、アジアの思想の基盤である仏教の両方を利用し自らの思想を表現した。

富山は「私は苦境に立つと、このゲーテの詩を思い浮かべます」と述べている。彼女は、 蝶々が炎の中へ飛んで行ってしまう「聖なる憧れ」の最後のスタンザに焦点を当てた。

「聖なる憧れ」ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ (大山定一訳)

どのような遠さも、おまえを隔てはせぬ。

おまえは引きよせられ、呪法の輪のなかに縛られ、

やがて、夜の蛾よ、おまえは灯にとびこんで、

わが身を灼いてしまうのだ。

 

死して生きよ!

これを会得しないかぎり、

おまえは昏い大地の

物憂い客人にすぎぬ。

 

Revelation from the Sea: Tsunami | 海からの黙示: 津波 (2011)
Revelation from the Sea: Tsunami | 海からの黙示: 津波 (2011)

このシリーズ中で最も迫力のある絵は、人間の動きから目を話さず、仏教的に東西南北から守る四天王を描いてている。四天王はヒンズー教や多くのアジアの宗教に現れ、風神と雷神のように風と雨に関連している。富山はこのシリーズを通して死後の世界を尊重する仏教の信念を強調している。以前の作品の神々は人間の代理人として描かれていたが、ここでの仏たちは人間を厳しく批判している。富山はこのシリーズにおいては戦争、植民地支配、資本主義、性差別のみを非難しているのではなく、仏教の中心思想である苦しみを与える全てを批判しているのだ。