丸木俊 (1912-2000) 丸木位里(1901-1995)

丸木俊と位里は、1945年8月15日に原爆投下された広島 を、1952年から1982年にわたって夫婦で描き続けた日本画家として有名である。その作品は、ここで見ることができる。丸木夫妻も、富山妙子のように、政治と芸術のバランスをどう保つか、そして日本人としてどのように日本の過去に批判的に向き合うべきかという問題に深く取り組んだ。

 

Water | 水 (1950)
물 | Water | 水 (1950)

二人とも戦前からプロの画家だった。丸木位里は水墨画家、俊は油彩画家と本のイラストレーターとして 活躍していた。戦後は、壁画を通して共作した。時には互いの作品の上に直接描き加えるスタイルでコラボレーションしながら、各自のスタイルを超えるものを作り出した。複雑で重奏な、迫力ある作品である。 二人の作品の堂々とした存在感は、ウエブ上の写真ではなかなか再現できない。

丸木夫妻が広島を書き始めたのは、原爆投下直後の広島の恐ろしい光景と人間の苦しみを見て 忘れる事ができなかったからだった。広島出身の位里は 、原爆のニュースを聞くや否や、家族の安否を探るために妻の俊と共に広島へ向かったのだった。二人の 見た広島を描いた作品は、国内だけではなく国際的にも注目を浴びるようになった。これらの作品には、丸木夫妻の被爆者に対する悲しみと深い同情が表現されている。

こういった主題には不適切とも思われる美の感覚が、二人の作品には感じられる。「私たちは、暗く、残酷で、苦痛な場面を描く。しかし、どうやってそこに存在する人間を描くか?私たちは美をもって描写したかった。」

Fire | 火 (1950)
불 | Fire | 火 (1950)

丸木夫妻は広島を描き続ける中、核兵器問題、さらには世界における日本の道徳的・政治的責任について考えるようになった。1954年にアメリカによるビキニ環礁での世界最大級の水爆実験が行われた。翌年、そこで被爆したマーシャル諸島の住民達と日本の漁船第五福竜丸の船員を描いた 「署名」と「焼津」を発表した。「焼津」(第五福竜丸が被爆後に到着した町)には、アメリカの核実験に抗議しているように挑戦的な姿で立つ地元の人々が描かれている。

「焼津」には最初、 富士山が描かれていた。丸木夫妻のアメリカの核政策に対する批判とその被害者である日本人が全面に押し出されていた。しかし、左派の友人達から、富士山のような安直な戦前を思い出させるイメージに頼ったことを批判された後、富士山を取り除き、第五福竜丸に置き換えた。

その後は、日本を現すイメージに関して、もっとニュアンスのある態度をとるようになった 。過去の過ちに対面しないで、平和主義という戦後のイメージばかり強くなる日本に疑問に抱くようになったからだった。

 

Yaizu | 焼津 (1955)
야이즈 | Yaizu | 焼津 (1955)

1970年代にアメリカで初めて作品を展示した。この時の経験は彼らの芸術に大きな影響を与えることになった。アメリカ人の鑑賞者から、なぜ 広島ばかり描き、日本が戦中に行った非業に 触れないのかという質問を受けた。この後の丸木夫妻の視点の拡大は、二つの方向で表現された。一つは、原爆経験の複雑さの描写である。1972年に制作された「からす」には、 原爆投下後の広島で朝鮮人が日本人から受けた差別が描かれている。日本人も朝鮮人も共に悲惨な経験をしたにも関わらず続いた差別だ。

Crows | からす (1972)
까마귀들 | Crows | からす (1972)

もう一つは、広島原爆以外の戦争の悲惨さを作品にし始めたことだ。例えば、1975年制作の「南京大虐殺の図」。旧日本軍人の証言に基づいて、日本人の中国人に対する殺傷や暴行を描いた。丸木夫妻は、富山妙子のように、日本人と日本政府の行動を 強く批判したのである。

maruki-05
난징 대학살 | Nanking Massacre |  南京大虐殺の図 (1975)

 

This discussion draws on Ann Sherif “Art as Activism: Tomiyama Taeko and the Marukis” in Laura Hein and Rebecca Jennison, eds., Imagination Without Borders: Feminist Artist Tomiyama Taeko and Social Responsibility, Ann Arbor: Center for Japanese Studies, The University of Michigan, forthcoming 2010.

The Digital version is fully and freely accessible on the University of Michigan Press website.